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CDプレーヤのメンテナンス Again [audio]

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 30年以上愛用している1992年製造のCDプレーヤCDP-777ESJのディスクトレイが開かなくなってしまいました。11年前にもトレイが開かなくなって修理をしたのですが、また再発してしまいました。前回の故障原因はディスクトレイが振動しないようにトレイの左右を押さえているロックアームの動きが悪くなっていたことでした。今回も同じ原因かどうか確かめるために分解して中を見てみました。

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 ロックアーム(上の写真でトレイ上に左右に渡してあるステンレス棒)を手で動かしてみますが、特に引っ掛かりもなくスムーズに上下します。原因は違う所にありそうです。ディスクトレイを外してスライド機構を点検してみることにしました。

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すると、トレイを搬送するギアにモータの動力を伝えているゴムベルト(上の写真の黄色矢印)がスリップしていることがわかりました。ついにゴムベルトが伸びてしまったようです。従って、これを新品に張り替えることにしました。実はいつかはこのような事態になるだろうと予想して、何年も前にゴムベルト(Φ35mm, t1.6mm)を買ってありました。

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古いゴムベルトを外してみると楕円形に変形して伸びていました(上の写真の左側。右は新品)。このゴムベルトと3つのギアでモータの回転を減速させ、その回転をトレイの裏に形成したラックギア(下の写真を参照)で直線運動に変換してトレイを開閉させる仕組みになっています。今回はそのゴムベルトが伸びて動力が伝わらず、トレイが開かなくなっていました。ディスクトレイは樹脂に炭酸カルシウムを混ぜてガラス繊維で強化した材料で出来ているようです。持ってみるとずっしりと重く、叩いてもほとんど音がしません。振動の減衰が非常に大きいことがわかります。トレイの不要な共振を防ぐことが狙いでしょう。たかがディスクトレイにここまで気を遣うとは恐れ入ります。しかもそれだけでは事足らず、再生中にロックアームを押し付けてトレイの振動を抑制する機構まで付けているのですから、ディスクトレイの振動撲滅に対する執念さえ感じます。余程ここの振動が音質に影響を及ぼすと睨んでいたのでしょう。最近では高級機でもパソコンのディスクドライブを流用したようなディスク・トランスポートを使用しているケースもありますから、この妥協のなさには脱帽します。3つあるギアのうちファイナルギアと中間ギアはシャフトに挿してあるだけなので上に引き抜けば簡単に外すことができます。2つのギアを外すとゴムベルトを新品に交換できます。ゴムベルトを交換した後に、念のためスライドをガイドするシャフト(2つ上の写真の白矢印および下の写真の金属棒)を引き抜き、パーツクリーナで汚れを拭き取って軽く潤滑剤を塗布しておきました。

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分解した時と逆の手順でトランスポート部を組み立て、電源を入れてトレイを開閉してみると、非常に滑らかに動くようになりました。あまりの気持ち良さに何回もイジェクトボタンを押して、しばらくの間ディスクトレイやロックアームの動作に見入ってしまいました。最後に対物レンズの表面を水で湿らせた綿棒で優しく拭いて、さらに乾いた綿棒で乾拭きして、前回の修理から11年分の汚れを落としておきました。

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1980~1990年代に製造されたオーディオ製品には音質を最優先に考えて、贅沢な材料を投入し、丁寧に作られた高品質な物が多く見られます。そのため現在でも中古品市場では高値で取引されているようです。このCDプレーヤも、そこまでやるか?と思うくらい細部にわたって手の込んだ造りになっており、分解するたびに感心してしまいます。このCDプレーヤの何とも言えない深みのある音が好きなので、修理が可能な限りできるだけ長く使い続けたいと思っています。


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高音質CDでジャズを聴く [audio]

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 いよいよ10連休の大型ゴールデンウィークが始まりました。海外旅行者数は過去最高、高速道路は連休中毎日渋滞が予想されています。こんな時は敢えて遠出はせず、家で好きな音楽を楽しむのも良いのではないでしょうか。今日は高音質でジャズ・ボーカルが聴けるCDと、それらを歌う女性シンガーを紹介します。


【Take Love Easy / Sophie Milman】
 Sophie Milmanは1983年にロシアで生まれました。7歳の時にイスラエル、15歳の時にカナダへ移住し、現在もカナダで活躍するジャズ・シンガーです。トロント大学の学生でもあり、2児の母でもあるということです。2枚目のアルバム「Make Someone Happy」(2007)ではカナダのグラミー賞と言われるジュノー賞の最優秀ボーカルジャズアルバム賞を受賞しています。Soft and Cool voiceで知られたPeggy Leeと比較されることが多く、Sophieの歌声は「煙ったラウンジやグラスの音、夜風の冷たさを想起させる」などと形容されています。多彩な文化の中で育った彼女が歌うジャズはアメリカ人やカナダ人のそれとは一味違うテイストを持っています。
 「Take Love Easy」(2009)はSophie Milmanの3枚目のアルバムになります。スタンダード・ジャズのみならず、Joni Mitchellの「Be Cool」、Bruce Springsteenの「I'm on Fire」、Antonio Carlos Jobinの「Triste」、Paul Simonの「50 Ways to Leave Your Lover」をカバーし、フォーク、ロック、ボサノバ、POPSなどあらゆるジャンルの音楽をJazzyに歌い上げています。Sophieの声はクールすぎるくらいクールです。幼ささえ感じさせる容姿とは裏腹に非常に姉御的な歌い方をします。しかし、例えばDiana Krallの姉御っぽさが「私について来なさい」的な包容力を感じさせるものとすれば、Sophie Milmanのそれはどこか突き放したような悪く言えば感情を押し殺した冷たさを感じます。録音も彼女の歌声に合わせてクールで端整な音質に仕上げられています。レコーディングはカナダのフリーランスエンジニアJohn 'Beetle' Baileyが担当しています。写真のCDはamazonで購入した輸入盤なのですが、紙ジャケ仕様のため表面が擦れてすぐにボロボロになってしまいます。通常のプラスチックケース仕様が選べるようにしてもらいたかったです。また、これは個人的な感想ですが、ジャケットの写真が安っぽい週刊誌のようでとても残念です。

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【Heart First / Halie Loren】
 Halie Lorenは1984年にアラスカ州のシトカで生まれ育ちました。幼少期にジャズやカントリーを好んで聴き、10歳の頃には地元のイベントなどの人前で歌って喝采を浴びていたそうです。大抵の少年少女がPOPSに傾倒する11歳頃からDiana Krallのジャズに深く影響を受けていたと言いますから、相当におませな少女だったのでしょう。13歳でオレゴン州に移り住み、15歳の頃からはプロとして歌い始めていたそうです。Halieはオレゴン大学でビジュアルアートの学位を取得しています。メジャーデビューアルバム「They Oughta Write a Song(邦題:青い影)」(2008)が日本を皮切りに北米でも大ブレイクし、Billboard、amazon、iTunesなどのトップチャートに名を連ねるようになりました。2011年の東日本大震災の際にはいち早く被災者を憂慮するメッセージを発信すると共に、地元オレゴン州でチャリティーコンサートを開催するなど親日家でもあります。
 「Heart First」(2011)はHalie Lorenの5枚目のアルバムになります。スタンダード曲に交じってシャンソン、レゲエ、ラテンや彼女自身のオリジナル曲も含まれています。12曲目の「In Time」は東日本大震災の被災者に捧げるためにHalie自身によって作られたオリジナル曲で、「時が全ての傷と悲しみを癒してくれますように」とのメッセージが添えられています。日本版にはボーナストラックとして「いとしのエリー」の英語詞曲「Ellie, My Love」とLouis Armstrongの「What a Wonderful World」が収録されています。Halie Lorenは上述のSophie Milmanとは対照的に過剰なほどに感情を込めて歌います。妖艶な色香を放つ高音部のウィスパーボイスは彼女の特徴的な歌唱法と言えるでしょう。また、拍や旋律を原曲からずらして歌うことでオリジナリティを加えようとする試みが随所に見られます。しかし個人的には「Taking a Chance on Love」や「Fly Me to the Moon」はやや崩し過ぎのような気がします。Halieはアートを学んだだけあって、彼女自身がセルフプロデュースしたこのアルバムのビジュアルデザインは秀逸です。Halieの妖艶な歌声のイメージに相応しく、ジャケ買いを誘う出来栄えです。

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【Home / Jane Monheit】
 Jane Monheitは1977年にニューヨーク州のロングアイランドで生まれました。彼女の祖母と叔母がプロのシンガー、母親がミュージカル俳優という環境で育ち、幼少期から音楽センスが磨かれて行きました。10代の頃は学校でクラリネットや音楽理論も学びました。その後、声楽を学ぶためにマンハッタン音楽学校に入学し、1999年には首席で卒業しています。現在彼女のバンドのドラマーであり夫でもあるRick Montalbanoとは同校で出会い、卒業後に結婚しています。1998年、20歳の時にセロニアス・モンク・ジャズ・インスティチュートのボーカル部門で2位を獲得し、メジャーデビューのきっかけをつかみました。デビューした後はレーベルを転々とし(私が把握しているだけでも7つのレーベル)、現在は自主製作CDのオンラインショップ「CD Baby」がディストリビュータとなっているようです。
 「Home」(2010)はJane Monheitの10作目のアルバムで、Emarcyレーベルから発売されました。そのタイトルが示す通り、Janeが拠り所としているスタンダード・ジャズの黄金時代を象徴する12曲を選曲しています。それらを作詞または作曲したArthur Schwartz、Richard Rodgers、Lorenz HartらはJaneが最も敬愛する作家たちなのだそうです。以前にも書きましたが、彼女はジャズシンガーとしては珍しく伸びやかで透明感のある美声の持ち主です。正確な音程と相まって、どんな曲でも安心して心地良く聴いていられます。彼女お得意のスキャットは奔放に跳ね回るように歌われますが、正確な音程とリズム感が故に、即興的な雑味を一切感じません。このアルバムでも彼女の魅力が遺憾なく発揮されています。

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スピーカー・スパイクを導入 [audio]

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 我が家のリスニングルームの床はパインの無垢材を使用しているために微妙なうねりがあり、平面性があまり良くありません。そのためスピーカースタンドの据わりが悪く、応急対策として隙間に家具用の小さなゴムの楔(くさび)を入れてガタが出ないようにしていました。しかし、もっと根本的な対策を打つ必要があると考え、スピーカー・スパイクを導入してみることにしました。
 スピーカー・スパイクと言うのはスピーカー(あるいはスピーカースタンド)が床と接触する面に円錐状の足を付け、床との間を面ではなく点で接触するようにするための部品です。面で接触させている場合、接触する面同士が完全な平面でない限り少なからずガタが生じます。しかし、3つの「点」で接触させればガタはなくなります。デコボコの地面でもカメラの三脚が立てられるのと同じ理屈です。スピーカー・スパイクのもう一つの利点は、スピーカーと床の間の振動の伝達特性を変えられることにあります。高い周波数の振動を伝えにくくしたり、床との共振を低減させたりする効果が期待できます。
 今回試したのはDAYTON AUDIOと言う米国でオーディオアクセサリーやパーツを扱うブランドのDSS6-BKというモデルです。真鍮製のスパイクとスパイク受けがセットになったものです。スピーカーへの固定にM6のスタッドボルト(雄ねじを切った丸棒)を使用する構造が決め手となりました。今回スパイクを取り付けるスピーカーは日本ビクター製のSX-V1と言うモデルで、このスピーカーの専用スタンドの底にはM6のタップが3つ切ってあるのです。従って、スタンドを加工することなくスパイクを取り付けることができ、気に入らなければ完全に元に戻せるのです。

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ただし、付属のスタッドボルトでは短すぎるため、長さ75mmのM6スタッドボルトを別途用意しました。SX-V1のスピーカースタンドはスピーカーエンクロージャーの底に突き出た3本の真鍮の足を3本の木製の支柱で受け、支柱の下端に円盤状のウエイトを付けて床に接するようになっています。ウエイトを支柱に固定しているボルトがM6なので、それを抜いて代わりにスタッドボルトを半分ほどねじ込み、他端にスピーカー・スパイクを取り付ける算段です。支柱とスパイクの双方にできるだけ深くスタッドボルトをねじ込みたかったため、長めのボルトを準備しました。

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ウエイトを取り付けるボルトを抜き、代わりにスタッドボルトとナットでウエイトを固定する

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突き出たスタッドボルトにスピーカー・スパイクを取り付け、ロックナットで固定する

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 上の写真のように床から宙に浮いた状態になりますが、不安定感はありません。むしろガタがなくなってメカニカルアースがきちんと取れた感じがします。早速試聴してみると、音を出してすぐに絶大な効果が感じられました。まず、シンバルやトライアングルなど高音の楽器の定位が驚くほど良くなり、どの方向で鳴っているかが非常に明確になりました。以前は楽器の位置を±1°の誤差でしか言い当てられなかったところを、±0.5°の誤差で言い当てられるようになった感じです。あるいは、わずかにボケていた画像に隅々までフォーカスが合った、という表現もできるでしょうか。更に、音の響きが良くなると共に低音が締まって聞こえるようになりました。また、音像が前後方向にも広がり、楽器とボーカルの前後関係がよりはっきりしてきました。全体的に混然となっていた音が一つ一つにほぐれて聞こえるようになった印象です。スパイクの3点支持によりガタがなくなり高音の位相関係が正確になったこと、床とのアイソレーションにより左右のスピーカー振動の干渉が低減したこと、床との共振が減りスピーカーが独立に振動できるようになったことなどが良い結果を生んでいるのではないかと考えられます。音を聴くまでは、変化がわからないくらい些細な効果しか得られないだろうと思っていましたが、もっと早くスパイクを導入しておけば良かったと後悔するくらい劇的に音質が良くなりました。今まで聴いて来た音源を全部このセッティングで聴き直したいと思うほどの改善です。これだからオーディオはやめられません。スピーカー・スパイクはコストパフォーマンスが極めて高いチューニング方法なので、お手持ちのオーディオセットをワンランクアップさせたいとお考えの方には試してみることを強くお勧めします。

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お薦めの高音質CD [audio]

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 ひと口に「高音質」と言っても色々な定義があると思います。周波数帯域やダイナミックレンジが広いというのも一つの指標でしょう。しかし鑑賞の対象が音楽である以上、聴いていて楽しくなければなりません。従ってここでは、
 ・音場再現に優れた録音であること
 ・楽器の音や歌声にリアリティがあること
 ・楽曲が優れていること
 ・演奏や歌唱が優れていること
を総合的に兼ね備え、システムのチェック音源にも使える良質なCDを紹介しようと思います。


【The Hunter / Jennifer Warnes】
1992年に発表されたこの作品は、オーディオマニアの間ではあまりにも有名で、高級オーディオ店やオーディオ評論家の方々の試聴用ディスクとして愛用されて来ました。私が持っているのは2008年にリマスタリングされた「24K GOLD SPECIAL EDITION」です。通常のCDは反射膜にアルミニウムを蒸着していますが、このディスクはより反射率が高く経年劣化が少ない純金を蒸着しています(反射率が高すぎてCDの規格を外れているのか、「Compact Disc」のロゴがどこにも付いていません)。Jennifer Warnesは1982年の映画「愛と青春の旅立ち」の主題歌をJoe Cockerとデュエットしていたアメリカのポップスシンガーなので、誰もが彼女の歌声を聞いたことがあるでしょう。このアルバムは90年代の流行を反映して打ち込みを多用しており、音数がとても多く、あらゆる方向から色々な音が降り注いで来ます。音質面では打楽器の音の立ち上がりが鋭く、キレの良いリズムパートを楽しめるのが特徴です。また、地響きのような分厚い重低音が1曲目から全編にわたり、これでもかと押し寄せてきます。ミキシングにより人工的に作られた音場ですが、違和感なく没入することができます。楽曲もアメリカンポップス、AOR、カントリー、民族音楽など様々な要素を取り入れることでバラエティーに富んだものになっていて、何度聴いても楽しい作品です。録音は巨匠Phil RamoneのアシスタントだったElliot Scheiner(グラミー賞を8回受賞)が担当しています。因みにPhil RamoneはFrank Sinatra、Paul Simon、Bob Dylan、Billy Joelらの録音、プロデュースを担当した名レコーディングエンジニア兼プロデューサで、個人的にはBilly Joelの一連の作品で印象深い方です。残念ながら2013年に故人となられています。一方このディスクを録音したElliot ScheinerはTOTO、Chaka Khan、Eric Clapton、Eaglesらの録音、プロデュースを担当されたレコーディングエンジニア兼プロデューサで、最近は5.1chサラウンドのミキシングにも情熱を注がれているようです。
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【Taking a Chance on Love / Jane Monheit】
Jane Monheitは1977年ニューヨーク生まれのジャズシンガーで、1999年にマンハッタン音楽学校を卒業後、2000年にメジャーデビューを果たしています。本CDは2004年にリリースされた彼女の4枚目のアルバムになります。タイトル曲の「Taking a Chance on Love」をはじめとする往年のミュージカル映画で使われたスタンダードナンバーを中心に構成されています。彼女の歌声はジャズシンガーには珍しい澄んだ伸びやかな美声で、正確な音程と相まって、どんな曲でも安心して心地良く聴いていられます。彼女を特徴づけるのはスキャットの上手さではないかと思います。奔放に跳ね回るように歌っていますが、絶対音感の持ち主だと確信させる正確な音程とリズム感が故に、即興的な雑味を一切感じません。音質面では目の前に広がるバンドとシンガーのリアルな音像が秀逸です。音のアタックと余韻が美しく、リスニングルームが響きの良いスタジオに変身します。透明感のある空気までをも表現できるのは、我が敬愛するレコーディングエンジニア、Al Schmittの技量によるところが大きいでしょう。デジタルプロセッシングやミキシングに頼らず、考え抜かれたマイクロフォンのセッティングによってナチュラルな音場感を作り出している職人芸は、前述のElliot Scheinerとは真逆な手法と言えるでしょう。
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【The Look of Love / Diana Krall】
もはや大御所の貫禄すら感じさせるDiana Krallは1964年にカナダで生まれたジャズピアニスト/ボーカリストです。アメリカのバークリー音楽大学を卒業後、ロサンゼルスやニューヨークで経験を積み、1993年にデビューを果たしました。ブリティッシュロックのミュージシャンElvis Costelloの3人目の妻としても有名です。美女ボーカルの草分けとも言われる彼女のルックスとは大きなギャップのある力強いピアノプレイと太くハスキーな姉御的歌声が特徴です。彼女のほとんどの録音には前述のAl Schmittが関わっていますので、どのCDを選んでも音質的にはハズレを引くことはありません。その中でも特にお薦めするのは2001年にリリースされたこの「The Look of Love」です。スタンダードナンバーを集めた選曲が素晴らしく、Diana Krallの魅力とAl Schmittの録音技術が遺憾なく発揮されている作品だと思います。
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他にも高音質のCDをお探しの方はこちらもご参照下さい。
 ・秋の夜長はジャズボーカルを


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OPPO Sonica DAC [audio]

 音楽の再生には主に1992年製のCDプレーヤ(ソニー製CDP-777ESJ)を使用していますが、25年も使っているといつ壊れても不思議ではありません。壊れて困る前に何らかの対策が必要なのですが、これと同等の性能を持つ新しい製品を買おうとすると、物凄い金額を払う必要がありそうです。しかもCDというパッケージメディアがこの先何年使われ続けるかの保証もありません。従って、そろそろファイル再生に移行する時期と考え、ここ何年かはコツコツと手持ちのCDをNAS(Network Attached Storage)にリッピングする作業を進めていました。その作業がほぼ終了した現在ではリッピングしたファイルから音楽を聴くことも多くなりました。ファイル再生はディスクをCDプレーヤにセットする必要もありませんし、プレイリストを作ることでアルバムの枠を超えて好きな曲を好きな順番で再生することができるので、その便利さを知ったらやめられなくなります。ところがCDプレーヤで再生した時の音質に比べて、ファイル再生(ネットワークオーディオプレーヤとしてソニー製AVアンプSTR-DN1050を使用)した時の音質が明らかに劣ることが大きな問題でした。その原因はDAC(Digital-to-Analog Converter)にあります。バブル経済期に物量を投入して作られたCDプレーヤのDACと、その3分の1以下の価格で7チャンネルものアンプを内蔵しているAVアンプのDACを比較するのは酷ですが、音の深みが全然違うのです。そこで、巷では「価格破壊」とまで言われて大人気のOPPO Sonica DACの導入を検討してみようと考えました。

 Sonica DACは米シリコンバレーにあるOPPO Digital社の製品です。同社はスマートフォンでシェアを伸ばす中国OPPO社のAV部門から派生した会社のようです。Sonica DACにはESS Technology社の最新世代フラッグシップDACチップ「ES9038PRO」が搭載されているとして話題になりました。このチップは今まで数十万円から百万円を超える高級DACに使われて来た物であったため、約10万円のこのDACに搭載されるのは画期的なことでした。もちろんDACの音質はDACチップだけで決まるものではありませんが、雑誌やネットの評判からある程度の水準以上であろうとの期待は充分に持てました。このDACにはネットワークオーディオプレーヤ機能も搭載されており、パワーアンプとスピーカを接続すればそれだけでNASのファイル再生が楽しめます。私が求めている用途にピッタリだと思いました。そこで、3月の終わりにオーディオショップに行って試聴のお願いをしました。ところがこの商品は異常なほどの人気で、ショップには全く在庫がなく、それどころか次の入荷がいつになるかもわからないとのことでした。結局、試聴に漕ぎ着けたのは2ヶ月後でした。試聴させてもらった結果、一定の水準には達しているようでしたのでその場で注文し、その2週間後に手に入れることができました。

 いよいよ2ヶ月半待ち焦がれた商品の開封の儀です。日本の製品には見られないような端正なデザインの段ボール箱を開けてみます。

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すると、中にはPOP(Point Of Purchase advertising)に使うためなのか、製品の特長を印刷した立派なシートが入っていました。

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その下には日本語のユーザーマニュアルと、3極の電源ケーブル(アースあり)と、それを2極(アースなし)へ変換するプラグアダプタが入っていました。

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緩衝材を取り除くと、本体が入っている黒い袋が出てきました。気休め程度の乾燥剤も入っています。

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袋から本体を取り出し、LAN(Local Area Network)やアンプへの接続をしました。LANへの接続は有線でもWi-Fiでも可能ですが、安定性を考慮して有線で接続することにしました。

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筐体の作りは良くできていると思います。フロントパネルやつまみはプラスチック製ですが、天板はアルミの押し出し材を使用しているようで、価格相応の質感と剛性は確保しています。リモコンは付属しておらず、ネットワークオーディオプレーヤとして使用するにはスマートフォンかタブレットが必要になります。使わなくなったiPhone4sに「OPPO Sonica」というアプリをダウンロードしてリモコン代わりにすることにしました。同じLAN上にSonica DACとスマホを接続して簡単な設定を行えば相互に認識し合えるようになります。最初に本体のファームウエアを最新のバージョンに更新するようメッセージが出ましたので、スマホから操作を行ってファームウエアのアップデートを行いました。アップデート後のバージョンはSonica-33-0511となりました。


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比較するのはSonica DAC(上)とSTR-DN1050(下)


 逸る気持ちを抑えて音質を確かめます。音を出してみて最初の印象は、「透明で明瞭な現代的な音」でした。混沌としていた音の塊を解きほぐして、一つ一つの音をクッキリはっきり描き出している感じです。音の消え際は雪の中の静けさを彷彿とさせ、TA2020のD級アンプの音を聞いた時の印象に似ています。肝心のAVアンプ(STR-DN1050)との比較ですが、STR-DN1050が横方向にこぢんまりと焦点の合った音像を作るのに対して、Sonica DACは横方向に音場を拡げて聞かせます。一方で奥行き方向の広がりはSTR-DN1050の方が深い感じがしました。Sonica DACの高音は金属の質感を良く表現していました。音像の定位もしっかり安定しており好感が持てました。しかし、低音の音質がモヤモヤしていてあまり好みではありませんでした。ベースの重低音がボン付き傾向にあり、音程感がありません。実はショップで試聴した時にも同じように感じましたが、それは無造作に棚に置かれたB&Wのスピーカ(CM6 S2)が実力を発揮していないことが原因だろうと思っていました。しかし自宅のスピーカ(日本ビクター製SX-V1)でも同じなので、これはSonica DAC自体の特徴なのでしょう。DAC回路に独WIMA社のフィルムコンデンサを多用していることが一つの原因ではないかと思いました。自作アンプを作る時に、WIMAのコンデンサを使うと定位が良くなるのですが、ドンシャリ傾向が出ることを経験しています。高音が少しだけ歪みっぽく強調され、低音は箱鳴りしているようにダブ付くのです。ネットワークからの再生だけではなく、USB端子も同軸デジタル入力でも同じ傾向の低音でした。これには相当がっかりしてしまい、早々にドナドナに出すことも頭によぎりました。しかし、とりあえずもう少し聴いてみようと思い、数日使い込んだところ、幸運にもだいぶ改善してきて許容範囲に入って来ました。この製品はエージングが必要なのかも知れません。更に、間に合わせでアンプとの接続に使っていた素性不明のケーブルを太いOFC(無酸素銅)ケーブルに変えたところ、薄い霧がすっきり晴れたような印象に変わりました。低音のボン付きがまだ少々気になりますが、もう少しエージングが進めば総合力でSTR-DN1050より良くなる可能性も出て来ました。また、小音量で聞いた時には非常に綺麗な音で鳴ります。これは情報量が多いことを示しているように思えます。


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25歳のCDプレーヤCDP-777ESJ


 ではCDP-777ESJと比べたらどうなるでしょうか。これは残念ながらCDP-777ESJの圧勝でした。奥行き感を感じる音像の定位、金属を叩いた音の質感、締まったベースの音程感、ボーカルや弦楽器の艶感、どれを取ってもCDP-777ESJの方が一枚上手でした。好みの問題もあるでしょうから一概に優劣は付けられませんが、Sonica DACが白いプラスチックフィルムでピッタリと綺麗にラッピングされた物のイメージだとすると、CDP-777ESJは臙脂(えんじ)色のベルベットをふんわりと被せられた物のイメージが浮かびます。CDP-777ESJの音を触覚に例えると、細部の凹凸を必要以上に強調せず、しかし少しザラっとした感触を付け加えながらも心地の良い手触りを感じさせてくれるベルベットなのです。そのような絶妙な味付けのおかげで、そこはかとなく上質感が漂って来るのです。一般に高級オーディオのことをHi-Fi(High Fidelity=高忠実度)オーディオと言いますが、今回の聴き比べを通じて、録音された時の音を忠実に再現するものよりも、多くの人が心地良い、あるいはリアルと感じられる音に味付けできる装置や環境を真の高級オーディオと呼ぶのではないかと思いました。そしてそのような物に対して相応の(時には不相応と思えるくらい高い)対価を払うのがオーディオの世界なのではないかと思いました。そもそも録音時の原音なんて、そこに立ち会った一握りの人しか知り得ず、答え合わせさえできません。忠実度は計測器で測定はできても、ユーザの耳に対しては一般的な指標にはなり得ないのです。

 Sonica DACはハイレゾ時代に相応しい高音のキレ、音の塊を解きほぐす分解能、しっかりした音像の定位、明るく元気な音色、多様な入力やフォーマットに対応する柔軟性、を備えたコストパフォーマンスに優れたDACでした。所期の目的は完全には達成できませんでしたが、これからエージングが進むとどのように化けるか楽しみでもあります。しかし、雑誌やネットで目にする評論家の方々の絶賛の声は少々大袈裟だと言わざるを得ません。「価格破壊」とか「クラスを超えた」とか言う派手な枕詞よりは、「ユーザーの購買意欲を掻き立てるように上手に企画された製品」の方がしっくり来ると思います。

 最後に残念な点を一つ。「OPPO Sonica」アプリでDLNAサーバの同一フォルダにある複数のファイルを連続して再生すると、各曲の先頭で一瞬音が途切れてブツッとノイズが乗ります。USB接続したHDDのファイルを再生する時も同じです。これでは気になって音楽を楽しめません。同じファイルを他社のネットワークプレーヤ(ソニー、TEAC、オンキョー)で再生してもノイズは発生しないので、おそらくSonica DACのファイルの読み出し方、特にバッファの使い方か何かに問題があるものと思われます。OPPO Japanにはメールでフィードバックを送りましたが何の回答もありませんでした。是非とも次のファームウエア・アップデートで直していただきたい点です。これが直らない限り、ネットワークプレーヤとしては使い物になりません。苦肉の策としてオンキョーのネットワークCDプレーヤ(C-N7050)でファイルを読み出し、同軸デジタル出力でSonica DACに送ってD/Aコンバートさせて使うことにしました。この方法だとDSDはデジタル出力されませんが、WAVやFLAC(サンプリング周波数192kHz以下)なら問題なく再生できます。また、オンキョーのiOS用コントロールアプリが使いやすいことと、スマホやタブレットがなくても付属のリモコンからファイルの選択ができるというメリットもあります。

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D級アンプの製作 [audio]

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 オーディオ用のアンプには動作原理の違いにより、A級、B級、AB級、D級などの分類があります。以前製作して現在もメインで使用しているアンプはA級アンプに分類される物でした。(下記参照)
 ・A級アンプ製作中
 ・A級アンプ完成
 ・A級アンプ改良
一方、近年増えて来たD級アンプにも興味があり、どのような音がするのか聴いてみたくなりました。そこで試しにTRIPATH社の1チップD級ドライバIC(TA2020-020)を使ってD級アンプを作ってみることにしました。


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音質に定評のあるTRIPATH社のTA2020というD級アンプIC。ちなみに今はもうTRIPATH社は存在しない。

 D級アンプとは、オーディオ信号をパルス変調し、そのパルスでスイッチング素子をオン/オフして電力増幅するアンプの総称です。0と1のスイッチングパルスを発生することからデジタルアンプと呼ばれることもあります(アナログ量をデジタル量に変換(A/D変換)する訳ではなく、単にパルス変調するだけなので、個人的にはデジタルアンプという呼称には少々違和感を感じます)。D級アンプは他の方式に比べて電力効率が良く、ほとんど発熱しない特長があります。

 D級アンプに入力されたオーディオ信号は、PWM(パルス幅変調)やPDM(パルス密度変調)などにより変調されてスイッチングパルスになります。図1に最も一般的な三角波とコンパレータを用いたPWM変調の例を示します(出典:マキシム アプリケーションノート3977)。三角波よりも入力信号の方が小さければ0、大きければ1とすることにより信号の大きさをパルス幅に変調できることがわかります。TA2020も同様の方法を用いていると考えられます。


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図1 三角波とコンパレータによるPWM変調

こうして得たパルス信号で電源のオン/オフをスイッチングしてスピーカを駆動するのがD級アンプの原理です。図1で、正弦波状の入力信号と矩形波状の出力信号は似ても似つかないと思われるかも知れませんが、スピーカを駆動する出力信号Voを積分すると入力信号と同じ波形が得られます。別の見方をすると、VoをLPF(Low Pass Filter)に通してパルスのキャリア成分を除去すると音声信号が得られる、と言うこともできます。そんな訳で、D級アンプの出力には必ずLPF(積分器もLPFの一種)が付いています。しかしここで疑問に思うのは、PWMのキャリア周波数は1MHz程度と非常に高いので※1、スピーカの振動板も人間の鼓膜も追従できずに自然にLPFがかかった状態ですから、回路にLPFがあってもなくても聞こえ方は同じはずではないかと言うことです。もしかしたら、D級アンプの出力段に付けるLPFはむしろ不要輻射を防ぐためだと考えた方が良いのかも知れません。(※1 図1は原理を示すための図なので、細部が実際とは異なります。実際には音声信号よりも充分に高い周波数の三角波を使用して振幅方向の分解能を向上させたり、出力にDC電圧が生じないようにBTL接続にしたりします。)

 話を元に戻すと、TA2020というICを使って、手軽にD級アンプを作ることができました。回路は基本的にTRIPATH社のデータシート通りです。唯一違う所は、アナログ回路の電源(8番ピン)を、IC内部で作られる5V(30番ピン)を使うのではなく、トランスと3端子レギュレータで作った外部電源から供給しているという点です。このように、より電流容量のある安定した電源を使うことで低音の音質が向上すると多くの先達の方たちが述べています。もちろんメインの12V電源もACアダプタではなく、トランスから作った電源を使いました。また、出力段のLPFに使用するインダクタはオーディオ用の太線を巻いた物(東光のDASM1620)を使いました。コンデンサはデフォルトでWIMAのMKS2を選択しましたが、後に色々と交換して音質をチューニングできるように基板側はソケットピンにしてあります。


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フェライトケースに入ったオーディオ用インダクタを使用した


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コンデンサはデフォルトでWIMAのMKS2を使用。交換できるよう基板側はソケットピンにしてある。

基板の製作が終わり、ケースに組み込んだら恐る恐る電源スイッチをオンにします。とりあえず異常はないようなので、負荷として4Ωのスピーカを接続し、無音状態での出力端子の電圧をオシロスコープで見てみました。平均的には0Vが出力されており、スピーカを損傷する惧れのあるDC電圧は出ていないことが確認できました。ただし、輝線の太さが異様に太く、時間軸と電圧軸を拡大して見ると、他の方式のアンプでは考えられないくらいの盛大なノイズが乗っていました。図2に無音時の左右チャンネルの出力波形を示します。約0.2Vp-pの1MHz弱のノイズが見られます。これは前述のPWMキャリアがLPFで除去しきれずに漏れ出たもので、D級アンプ特有の現象です。もちろん周波数が高いために人間の耳にはノイズとして聞こえることはありません。音声信号を入れてみたところ、スピーカから音が出てきて一安心。しばらく聴いてみましたが、ノイズも歪みも感じられませんでした。


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図2 無音時の出力波形。LPFで除去しきれないPWMキャリアが漏れ出ている。

 正常に動作しているようなので、お気に入りのスピーカ(日本ビクター SX-V1)に接続して音楽を聴いてみます。第一印象は、ノイズ波形からのイメージとは正反対の「クリアな音」でした。シンバルやトライアングルの高音が歪み感なく澄んで聞こえ、金属の質感が良く伝わって来ます。音像の定位にも優れており、楽器それぞれが分離してはっきりと聞こえてきます。一方で、低音は充分に出てはいるのですが、すっきりし過ぎてやや物足りない感じがしました。また、強いて言えば響きや余韻に欠け、音場感は今一歩という印象です。ボーカルの艶や深みのようなものには乏しい感じでした。とは言うものの、1チップICでここまでの音質が得られるのならば満足度は高いのではないでしょうか。このICのメインターゲットであったPC、TV、カーオーディオ、パチンコ台※2あたりに使用するには充分すぎる性能だと思います。クリアですっきりした音質が好みという方にはお薦めできるアンプです。今回はWIMAのコンデンサで統一しましたが、色々な銘柄を組み合わせることで好みの方向へチューニングして行くことはある程度可能ではないかと思います。(※2 音が良いと評判の格安中華アンプは廃パチンコ台から回収したTA2020を使用しているという噂です)


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上の小さい方が今回作ったD級アンプ、下は以前作ったA級アンプ

 近年流行の兆しを見せているD級アンプですが、実はその歴史は案外古く、1977年にソニーから世界で初めて実用化されています。私はちょうどその頃にオーディオに夢中になり始めていて、そのTA-N88という非常に薄型でクールなデザインの、それでいて160W +160Wと高出力なパワーアンプを鮮明に覚えています。その当時はD級アンプという言葉もなく、私自身もデジタル伝送とかパルス電源とかの意味も全く理解できなかったために、このアンプの技術的意義は知る由もなかったのですが、他のアンプとはどこかが違うということだけは感じていました。今ならD級アンプであるが故にこの印象的な薄型デザインが実現できたことや、不要輻射を漏らさないために密閉度の高い高級そうなアルミのシールドケースに入っていることが良く理解できます。当時の日本のメーカが新しい技術に果敢にチャレンジして画期的な商品を世に送り出していたことを誇らしく思います。


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大切に保管してあった1977~78年当時のカタログを引っ張り出してみた

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秋の夜長はジャズボーカルを [audio]

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 秋の夜長にはJazzyな曲が聞きたくなります。特にスローでシンプルな楽曲を良い音質で聞きたいものです。そこで、このところ良く聞いている女性ジャズ・ボーカリストと彼女らのCDの中から音質の良い物を選んでご紹介したいと思います。
 
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【Yours / Sara Gazarek】
 Sara Gazarekはシアトル出身のジャズシンガーで、2005年にこのアルバム「Yours」でデビューしました。レコーディング当時は23歳だったと思われますが、若々しさの中にも落ち着いた雰囲気があり、実に歌がうまい歌手だと思います。南カリフォルニア大学のThornton School of Musicという音楽の名門校を卒業しているということなので、音楽の基礎がしっかりしているのでしょう。日本でもしばしば公演を行っているようなので、機会があれば是非生で聞いてみたいものです。収録曲はスタンダードあり、オリジナルありですが、どれもスイング感に富み、最初から最後まで心地良く聞けます。
 このアルバムは音質的にも非常にクオリティが高く、お薦めの1枚です。とにかく音場感が素晴らしく、適度なリバーブ量でスタジオの広さが手に取るようにわかります。ピアノ、ベース、ドラム、ボーカルのシンプルな構成ですが、音像の定位が良く、リアリティを感じる録音になっています。録音は、11回もグラミー賞を受賞したベテランエンジニアのAl Schmittが担当しています。
 
【Come away with me / Norah Jones】
 日本でも有名なNorah Jonesは北テキサス大学でジャズピアノを専攻していましたが、20歳のときにニューヨークに移り住み、Blue Noteの社長に見出されて歌手デビューを果たします。実質的なデビューアルバムとなったのが2002年に発売されたこの「Come away with me」で、全世界累計2300万枚の大ヒットとなりました。Norah Jonesは声がとても魅力的な歌手だと思います。このアルバムでも倍音を多く含んだ深みのある声に癒されます。収録曲はかなりカントリーな感じのアレンジになっています。
 録音は音圧でグイグイ押して来るような近年流行りの傾向の音に仕上がっています。ピアニッシモや余韻を楽しむものと言うよりは、どの楽器もクッキリハッキリ聞こえて解像感や存在感を楽しむものと言った印象です。特にボーカルは前へ前へ出て来て立体的に聞こえます。録音はJay Newlandが担当しています。
 
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【Born To Sing / SHANTI】
 SHANTIは逗子出身のシンガーソングライターで、16歳ごろからシンガーとして桑田佳祐、サディスティックミカバンド、CHAR、マリーンらの多くのアーティストと様々な形でコラボレーションしてきた実力派です。2010年にこの「Born To Sing」でメジャーデビューを果たしました。このアルバムではスタンダード、ポップス、サザンオールスターズの「真夏の果実」などを全曲英語詞でJazzyに歌い上げています。英語の発音が流暢で日本人離れしていますが、それもそのはず、お父さんがゴダイゴのドラムを担当していたTommy Snyderさんなのです。
 音質は音場再現が素晴らしく良く、アコースティックギターや歌い手がすぐ目の前にいるかのごとくリアルに感じられます。12曲目に収録されているFly Me to the Moonのイントロでは豊かなベースの低音や鋭いシンバルの高音が含まれているため、機材チェック用の音源として重宝しています。伴奏と歌は同時に録音されたのか、各曲でスタジオの雰囲気が生々しく伝わってきます。録音は日本コロムビアの塩澤利安さんが担当されています。
 
【POP POP / Rickie Lee Jones】
 日本でも人気のあるRickie Lee Jonesはシカゴ生まれのシンガーソングライターです。19歳の頃からロサンゼルスのクラブなどで歌い始めたそうです。1979年、24歳の時にアルバム「Rickie Lee Jones」でデビューし、いきなり全米第3位の大ヒットを記録しました。今回ご紹介する「POP POP」はデビュー後10年以上経った1991年のアルバムで、アコースティックなギターとベースが中心のシンプルな編曲に、Rickieの独特の歌声が映える作品になっています。バックにはジャズミュージシャンを起用し、ややポップス寄りではありますが、デビューアルバム「Rickie Lee Jones」よりはだいぶJazzyで大人っぽいテイストに仕上がっています。Rickieの鼻にかかった甘ったるく覚束ない歌い方が嫌いでなければお薦めできる作品です。
 音質的には弦の響きが非常に心地良く、特にベースの豊かな低音が身体の奥深くまで沁み込んで来ます。Rickieのブレス音が鮮明に聞こえて生々しささえ感じます。録音はElton Johnなどを手掛けたGreg PennyとJohn Edenが担当しています。
 
秋の夜長にジャズボーカルを高音質で楽しんでみてはいかがでしょうか。
 
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CDプレーヤのメンテナンス [audio]

20年間愛用しているCDプレーヤ(ソニー製CDP-777ESJ)のディスクトレイが突然開かなくなりました。このモデルはゴム製のプーリーベルトが劣化するとトレイが開かなくなる症例が多いので、一応プーリーベルトのスペアは購入してあります。いよいよ交換の時期到来かと覚悟しながら分解を始めました。分解を始めてまず驚くのはねじの数です。底板はなんと16本ものねじで固定されていました。不要な振動の発生を抑えるためと思われます。その他にも随所に振動に対して配慮された形跡がうかがえます。例えば、トランスが発生する微振動を伝えないように電源トランスはゴムのダンパーを介してシャシーに固定されています。また、天板の裏にはフェルトが貼り付けられていました。もう一つの驚きは、天板を開けて中を見ると、きれいに銅めっきされた筐体の中には20年モノの電気製品とは思えないくらいホコリがほとんどたまっていないことでした。ディスクトレイのフェイスパネルを外すとその秘密が解けました。天板には通気口が一つもないのに加えて、ディスクトレイの開口部周りにはシリコーンラバーのシーリングが施されていて、外気が入る隙間は底板のパンチ穴しかないのです。おそらく、ディスクの風切音を外に漏らさない配慮なのでしょう。おかげで内部は非常にきれいでした。掃除後2~3日で薄っすらと積もってしまう部屋のホコリよりも少ないくらいでした。トランスと電源回路はデジタル系および制御系とアナログ部で完全に分離された2系統を有しています。DAC用電源の平滑コンデンサにはELNAのオーディオ用(12000μF)が奢られています。基板の配置はメタルで仕切られた2階建て構造でアナログ部とデジタル部を上下に分離しています。

色々と感心しながら分解を進め、肝心のトレイ開閉の不具合原因を探ります。CDトランスポート部を外して上下左右から動作を観察します。このCDプレーヤはトレイが閉まった後に一本の金属棒が水平に下りてきて、その両端に付いているゴムのダンパでトレイの左右を押し、再生中のトレイの振動を抑える構造になっているのですが、トレイが開く時にそれがうまく上がらないようです。金属棒を手で少し押し上げてやるとトレイが開きます。また、トレイ自体の動きが少し渋くなっているようでした。金属棒の動作軸とトレイのスライド軸に溜まった劣化したグリースを取り除き、潤滑油を差してあげるとトレイはスムーズに開閉するようになりました。懸念していたプーリーベルトはまだ使用できるようでしたので、スペアは温存しておくことにしました。

1990年代のオーディオ機器は色々なところに細やかな配慮がされていて、非常に手間隙かけて丁寧に作られています。現在のように安さばかりを追及した何のこだわりもない製品とは全く対極にあると言えるでしょう。私は安い製品を大量にばら撒く現在の多くの企業姿勢や、ハードウエアの価値に対して正当な対価を払わない消費者の意識に大変疑問を持っています。安っぽいモノには愛着が湧きませんし、壊れたり飽きたりすればすぐに捨てられるでしょう。作っては捨てられるモノを大量に生産し続けることは決して地球に優しくありません。また、知恵や創造性を搾り出して産み出された製品が悲しくなるような安価で売られたり、安易にコピーされて安売りされてはモノづくりをしているメーカの利益が圧迫されて日本の経済は悪循環に陥ります。真面目に作られた良いモノを正当に評価し、適正な価格で売買し、大切に末永く使う世の中になって欲しいと思わずにはいられません。

一日の疲れを吹き飛ばしてくれるような心地良い音を奏でてくれるCDP-777ESJ。このような製品が欲しくても、もう二度と手に入らないでしょう。これからも大切にしながら出来るだけ長く使いたいと思います。

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底板の固定になんと16本ものねじが使われていた

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銅めっきされたシャシーにはホコリがほとんどなかった。写真中央にある金属棒でディスクトレイの振動を抑える。この動きが渋くなっていた。

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天板の裏にはフェルトが貼られている

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トランスの裏。ラバーブッシュで振動が伝わるのを防いでいる。

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ディスクトレイの入り口にはシリコーンラバーのパッキンがめぐらされている(上部で少し波打っている部材)

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天板の中央部を受けるT字金具。共振周波数をシフトさせるためか?ねじ穴を一直線に揃えるためか?いずれにしてもコストを考えたら有り得ないこだわり部品だ。


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A級アンプ改良 [audio]

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2011年の秋ごろから検討を開始し、2月に一応完成していた自作A級オーディオアンプ(こちらを参照)ですが、音量を上げてスピーカに耳を近づけたときにかすかに聞こえるハム(交流電源由来のブーンと鳴るノイズ)が気になり、改良を加えることにしました。このハムの原因は、スピーカ保護回路がアンプ基板と離れているところにあるため、アースラインが筐体内で大きなループを描いていて、そこを通る交流電源の磁場がアースラインに微小な電流を誘起していることにありました。それは以前からわかっていたのですが、改善するには基板をほとんど全部作り直ししなければならないために放置していました。しかし、一度気になると実害はなくても気持ちが悪いもの。奮起してアンプ基板とスピーカ保護回路を作り直すことにしました。どうせ作り直すならプリント基板にしてしまおう、プリント基板にするならあれも、これも、、、、と結局いくつもの改良を盛り込むことになりました。今回の主な改良点は下記の通りです。
(1)アンプ基板とスピーカ保護基板を同一基板に集約
(2)上記基板をプリント基板化
(3)スピーカ保護回路を両チャンネル別々に設け左右チャンネル完全独立化
(4)入力カップリングコンデンサを2.2μFから4.7μFに変更
(5)使用するコンデンサの銘柄を見直し

(1)(2)は前述のハム雑音対策です。(3)はチャンネルセパレーションを改善するための対策で、従来は左右チャンネルの信号が共通のスピーカ保護回路に入って来ていましたが、保護回路を2系統に分割することで電源からスピーカ端子までが完全に左右独立になりました。(4)は低音増強対策で、入力のDCカット用フィルタが可聴帯域下限の20Hz付近でも多少の減衰特性を持っていたところを10Hz以下まで完全にフラットな周波数特性にしました。(5)は(4)の対策のために4.7μFのフィルムコンデンサを探していたところ、VishayのMKT1813が音質的にも良かったので、入力のカップリング用4.7μFと出力のLPF用0.1μFの2箇所に使用することにしました。MKT1813は旧EROブランドの時からスピーカのネットワーク用やギターのエフェクタ用として定評のあるメタライズド・ポリエステル・フィルム・コンデンサでした。Vishay傘下に入った後の現行MKT1813を評価してみたところ、これまで入力のカップリングに使用していたPanasonicのECQE2と優劣付けがたい音質であることがわかりました。ECQE2や、出力のLPFに使用していた東信工業のMMSSACはエポキシ外皮の重量が意外に大きく、基板に半田付けすると頭でっかちでやや不安定な感じがしました。しかしMKT1813は重量が小さい上、チューブラ型なので基板に実装すると安定して、振動にも強い感じがします。そこで、ECQE2とMMSSACをMKT1813に変更することにしました。音質は中音域がややおとなしい印象に変わりましたが、これはf特がよりフラットになって高音も低音も充分に出ているために、相対的に中音域が小さく感じられるようになったとも解釈できます。肝心のハム雑音も20dBくらい低減されたように感じられ、全く気にならないレベルになりました。

周波数特性の測定結果を図1に示します。スピーカ端子に8Ωの負荷を接続し、1kHzでのゲインを20dB(出力約4W)となるようにボリューム位置を固定した時の特性です。入力のカップリングコンデンサを4.7μFに変更した結果、20Hz以下の低音域でフラットな特性となりました。一方、高音側は20kHzまでは完全にフラットになっていました。それ以上の周波数を出せる発振器がなかったため、更に高い周波数での測定はできませんでしたが、まだまだ上までフラットに伸びていると思われます。 

これで構想から製作・改良まで半年以上かけたA級アンプはひとまず完成としたいと思います。

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サンハヤトのアートワーク用インクジェットフィルムを用いてプリント基板の版下を作る

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版下を通してサンハヤトの感光基板を露光し、その後現像、エッチング、穴あけ、スルーホール処理を行う

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部品を実装し、筐体内に2階建てで組み付ける(1階が右チャンネル、2階が左チャンネル)

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図1 周波数特性の測定結果 10Hzから20kHzまではフラットな特性になっている 


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A級アンプ完成 [audio]

去年から足掛け2年で製作していたA級オーディオアンプが完成しました。聴き比べによる部品選びの結果、プリアンプ用オペアンプはOPA2604(バーブラウン(現在はテキサス・インスツルメンツ))を、コンデンサはECQE2(Panasonic)、MKP2(WIMA)、MMSSAC(東信工業)の3種類のフィルムコンデンサを、抵抗器は表1に示すように僅差でRP-24C(ニッコーム)を使用することにしました。抵抗器は金属皮膜抵抗同士の比較だったので、音質の傾向が似ていて優劣をつけるのが容易ではありませんでした。味付けが少なくトータルバランスに優れたものという観点で選んでいます。PCを接続してネットワークオーディオも楽しめるようにUSBオーディオインターフェースとS/PDIF(光および同軸デジタル入出力)も付けました。USBオーディオを使用しないときにはデジタル回路の電源を独立に落とせるようにしてあります。フロントパネルはできるだけシンプルなデザインにしました。ただし、手に触れるつまみ類の感触にはこだわり、重量感のあるアルミ無垢材の削り出し品を奢っています。4入力セレクタにはLEDインジケータを付けました。

肝心の音質は、リファレンスとして用いたソニー製アンプ(TA-F333ES)と同等と思えるところまでチューニングできました。自作ならではの何かキラリと光る部分を持たせたかったのですが、まだその域には達していないのが少々悔しいです。しかし、豊かな低音と歪みの少ないクリアな高音は心地が良く、いつまでも聞いていたくなります。プラシーボ(偽薬)効果ゆえなのかも知れませんが、これも自作ならではの楽しみでしょう。当初の目標であった「低歪みで色付けの少ないクリアな音質」というコンセプトは一応達成できたと思います。

自分の耳だけでは信用できないので、念のため高調波歪率を測定してみました。表2にその結果を示します。PCで正弦波を発生させて被測定アンプで増幅(負荷8Ω、出力は常用する0.02Wに調整)し、その信号を抵抗分圧して再びPCに取り込み、FFT解析をしました。ノートPC内蔵の安物のサウンドボードを通して測定したために、絶対値はあまり良くない値になっていますが、相対比較にはなると思います。嬉しいことに、リファレンスとして用いたTA-F333ESよりも高調波歪率は小さくなりました。何ヶ月かの地道な作業が報われた瞬間でした。

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アルミ削り出しのつまみ類とLEDインジケータ

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パネルデザインは出来る限りシンプルに

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USB端子の穴あけ加工。角穴はドリルで穴あけ後にやすりで仕上げる。

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リアパネルの穴あけ完了。角穴は手間がかかるので嫌いだ。

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端子類を取り付ける。金メッキが美しい。

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基板類の組み付け。相変わらず配線が汚い。長さを考えないで撚り線を作るのが敗因だ。パワートランジスタはシャーシの底板とヒートシンクでサンドイッチして両面から熱を逃がしている。

 

表1  抵抗器 聴き比べ

メーカー型名定格種類購入先価格コメント点数
TycoLR02040.25 WMetal Film (NiCr)RS\15平均的8
Vishy DaleCMF-550.5 WMetal Film (NiCr)共立\52シンバルがやや華やかな感じ 歪みが多いのかも8
ニッコームRP-24C0.5 WMetal Film (NiCr)千石\32平均的9
タクマンREY25FY0.25 WMetal Film (NiCrAl)若松\32シンバルがややおとなしい感じ 歪みが少ないのかも8

 

表2  高調波歪率 測定結果

 100Hz 1kHz10kHz
TA-F333ES0.070%0.012%0.015%
手作りアンプ0.060%0.007%0.009%

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コンデンサ聴き比べ [audio]

 自作オーディオアンプに使用する部品を選ぶためにコンデンサの聴き比べを行いました。比較用プラットフォームとして、FC2でブログを書いていらっしゃるsけいしさんのop6w100113というA級アンプ回路を使用し、中容量(C31=2.2μF)と小容量(C6=0.1μF)のコンデンサについてテストしました。その結果を表1および表2に示します。点数は10点満点で採点しています。試聴方法はオペアンプ聴き比べの時と同じ方法を用い、記憶のあいまいさや思い込みを極力排除するようにしました。(注:この評価は限られた使用条件の下での主観評価です。)


 

表1   容量2.2μF

メーカー

型名耐圧種類購入先価格コメント点数
WIMAMKS263 VMetallized Polyester共立\240定位良し 全体に曇った感じ 落ち着いた感じ7
PanasonicECQV1H50 VMetallized Film秋月\20高音まで出ているが、やや歪み感あり 明るい感じ7
Nissei 50 VPolypropylene若松\189響きが豊か 歪み感少ない 分解能にやや欠ける6
NichiconMuse ES50 VAluminum Electrolytic秋月\15平面的 解像度低い 響きに欠ける つやがない5
NichiconMuse FW50 VAluminum Electrolytic千石 \20平面的 解像度低い 響きに欠ける つやがない5
Toshin1HUTSJ50 VAluminum Electrolytic千石\53平面的 解像度低い6
PanasonicECQE2250 VMetallized Polyester共立\94

響き、つや良し 

高音で若干歪み感あり 

解像度が若干低い
ECQE2
0.1uFとパラで歪み減る
9

 

 

 

表2   容量0.1μF

メーカー

型名耐圧種類購入先価格コメント点数
PanasonicECHU1H50 VMetallized PPS千石\78高音まで良く出る 歪み少なくクリアな感じ チップ部品なので使いにくい10
WIMAMKP2100 VMetallized Polypropylene共立\130定位良し 高音まで良く出る WIMA独特のハイハットがザラつく感じ10
ToshinMMSSAC250 VMetallized Polyester千石\53解像度やや低い 高域伸びず中低域が厚い 丸い感じ7
RubyconF2D100 VPolyester秋月\10平均的 悪くないがやや解像度が低い7
NisseiMMT50 VMetallized Polyester秋月\20悪くないがつや、響きにやや欠ける8
NisseiAPS100 VPolypropylene共立\220ライトな感じ やや平面的7
WIMAMKT100 VMetallized Polyester共立\80広がりに欠ける 低音が狭い空間で鳴っている ハイハットがシャリシャリ6
WIMAMKS263 VMetallized Polyester若松\168広がりにやや欠ける ハイハットがシャリシャリだがMKTよりは良い7
PanasonicECQE2250 VMetallized Polyester共立\42高音まで良く出る 歪み少なくクリアな感じ 広がり良し
10

 

一般的に音声信号が通る経路には電解コンデンサを使用せずにフィルムコンデンサを使用すべきと言われていますが、今回の試聴でもそれが当てはまることが確認できました。いくら音響用の電解コンデンサと言えども、カップリングに用いると音が平面的になり、解像感が乏しく感じられます。一方のフィルムコンデンサにも色々と種類がありますが、それぞれに音質が異なり、それらを組み合わせて自分の目指す音質にチューニングするのは実に楽しい作業です。Panasonicのフィルムコンデンサは総じて音質が良好でした。シリーズにより誘電体の材質はPPSだったりPETだったりしますが、どれも音質は似ています。今回、2.2μFのカップリングコンデンサにはPanasonicのECQE2を用いることに決めました。ただし、2.2μF単独では高音で若干の歪みが感じられるのが気になりました。これは高い周波数域でtanδが悪化することが原因だと考えられます。そこで、同じシリーズの0.1μFと並列接続して使用することにしました。同じECQEシリーズでも、容量が小さい物ほど10kHz以上でtanδが大幅に小さくなっていることがスペックシートから読み取れるからです。実際に両者を並列接続して試聴すると歪み感が減り、澄んだ音になりました。小容量(0.1μF)のフィルムコンデンサもそれぞれに特徴があって面白いです。例えば、WIMA社のメタライズド・ポリプロピレンコンデンサ(MKP2)を使用すると非常に定位が良くなります。ただし、WIMAの製品に共通する特徴として、低音が箱鳴りしているような感じ(ボンづき)になったり、ハイハットの高音がザラついた感じに聞こえる傾向があります。東信工業のAC用フィルムコンデンサMMSSACは高域にはあまり伸びていませんが中低域が厚く感じられました。一種類だけのコンデンサを多数使用すると、その特徴が強調されすぎてしまうので、今回はC31(2.2μF)には前述の通りPanasonicのECQEをパラレル使用し、C6(0.1μF)には定位感向上を狙ってWIMAのMKP2を、ローパスフィルタのC5(0.1μF)には中低音重視で東信工業のMMSSACと、3種類のコンデンサを組み合わせて使用することにしました。試聴の結果は良好で、リファレンスとして用いた市販のアンプ(ソニー製TA-F333ES)と比較しても全く遜色ない音質になりました。望むらくはリファレンスを上回る歪みのない澄んだ高音と、より定位に優れた分解能の高い音が出るまでブラッシュアップしたいのですが、まだその域には達することができていません。今後の課題としたいと思います。

 

 

【2.2 uF】

DSC07712.JPG WIMA MKS2

DSC07713.JPG Panasonic ECQV1H

DSC07710.JPG Nissei

DSC07714.JPG Nichicon MUSE ES

DSC07716.JPG Nichicon MUSE FW

DSC07715.JPG Toshin 1HUTSJ

DSC07711.JPG Panasonic ECQE2

 

【0.1 uF】

DSC07705.JPG Panasonic ECHU1H

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チップ部品はリードを付けて交換できるようにしてテストした

DSC07709.JPG WIMA MKP2

DSC07703.JPG Toshin MMSSAC

DSC07702.JPG Rubycon F2D

DSC07706.JPG Nissei MMT

DSC07707.JPG Nissei APS

DSC07701.JPG WIMA MKT

DSC07700.JPG WIMA MKS2

DSC07699.JPG Panasonic ECQE


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オペアンプ聴き比べ [audio]

現在製作中のA級オーディオアンプのプリアンプ部分に用いるオペアンプを決めるために、NJM4580DD(新日本無線)、LME49720(ナショナルセミコンダクタ)、OPA2604(バーブラウン)の3種類のオーディオ用オペアンプを聴き比べてみました。電源電圧は±15V、電圧増幅率は約3倍に設定しました。パワー段には製作中のA級アンプを使っています。試聴にはCDP-777ESJ(ソニー製CDプレーヤ)とSX-V1(ビクター製スピーカ)を使用しました。今回は微妙な音質の差を聴き分けるために試聴方法を少々工夫しています。1台のアンプでオペアンプを交換しながら評価をすると、オペアンプを交換している間に前の音を忘れてしまい評価の正確さに欠けます。そこで市販のプリメインアンプ(ソニー製TA-F333ES)をリファレンスとして使用し、それとの音質差をチェックして行くことにしました。つまり、リファレンスと評価対象に同じ入力信号を与え、それぞれのアンプで増幅された音をスイッチで交互に切り替えながら評価対象の音質をチェックして行きます。この聴き比べを、評価するオペアンプの数だけ繰り返してオペアンプの相対評価を行います。こうすることで記憶の不確かさや思い込みを極力排除できると考えました。素早く2つのアンプを切り替えられるように秘密兵器を併せて製作しました。2種類のアンプと2種類のスピーカをトグルスイッチで自由な組み合わせに接続できるようにしたマトリクス・セレクタです。接続切り替え中のショートを防ぐためにスイッチにはOFFポジション付きの3ステート・トグルスイッチを使用しています。今回はスピーカの切り替えはせず、SX-V1のみを用いました。

表1に評価結果をまとめました。点数は10点満点で採点しています。当然のことながら、この評価は主観的かつ限定的な条件で実施されたものなので、好みや音源によっても結果は異なるであろうことにご留意下さい。以下はテストしたオペアンプの感想です。NJM4580DDは低音と高音がやや厚くなり、強いて言えば解像感と定位感にやや欠ける線の太い音に聞こえました。しかし値段を考えると無難にまとまっており、コストパフォーマンスには優れていると思います。LME49720は解像感が高く、グレードの高い音がしました。特徴を探せば、やや元気で明るい感じと言えるでしょう。超低歪み率が売りなのですが、残念ながら私にはそれは聴き分けられませんでした。OPA2604は最初おとなしい感じに聞こえました。音場も狭めな印象を受けました。しかし聞き続けているうちに、それは味付けの少ない素直な周波数特性と、解像感が高く、定位に優れているためではないかと思えてきました。今回製作しているアンプのコンセプトに最も適しているのはOPA2604だと感じましたので、これをプリアンプとして用いることに決めました。

コンデンサ聴き比べにつづく)

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オペアンプ(NJM4580DD)

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もう20年も使っているCDP-777ESJ(1992年製)。少々硬めのCDらしい音がお気に入り。この頃の機器は非常に真面目に作られているので、最近の機器よりも遥かに音が良いと思う。

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1995年製のSX-V1。外装はマホガニーの無垢材、バッフル板は真鍮ダイキャスト製。底面にある3本の真鍮製ピンで接地する構造になっている。楽器のような響きと定位に優れているところがお気に入り。「音楽」を聴くためのスピーカという感じがする。

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今回の評価のために製作した2アンプ×2スピーカ・マトリクス・セレクタ

 

表1  オペアンプ聴き比べ 結果

メーカー型名ひずみ率定格電圧購入先価格コメント点数
新日本無線NJM4580DD0.0005%18V秋月\50低音、高音がやや強調される 解像度にやや欠ける8
ナショナルセミコンダクタLME497200.00003%17V秋月\270やや元気な感じ 解像度良し9
バーブラウンOPA26040.0003%24 V秋月\300味付けのないフラットな感じ 解像度、定位良し10

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A級アンプ製作中 [audio]

 音の歪みが少なく、解像感が高いオーディオアンプを作ってみたくなり、2~3ヶ月前から回路の検討と部品集めを始めていました。市販のアンプの多くはB級動作アンプと言って、スピーカーを駆動する信号のプラス側とマイナス側を別々のトランジスタで交互に増幅しています。この方式ではトランジスタに流すバイアス電流が小さくて済むため、消費電力や発熱が小さくなります。(バイアス電流とは、トランジスタ増幅器の入力と出力が比例関係になるように動作点を調節するための電流です。)しかし、信号がプラスからマイナス(あるいはその逆)に変化するときにプラス用トランジスタとマイナス用トランジスタの間で仕事をバトンタッチしますので、ゼロボルト付近でゼロクロス歪みと呼ばれる歪みを生じます。何事にも一長一短があるという訳です。それに対してハイファイ機器の一部ではA級動作アンプが用いられています。A級動作とは、2つのトランジスタにバイアス電流をたっぷり流しておいて、スピーカーの駆動電圧がプラスでもマイナスでも常時両方のトランジスタが直線性の良い(つまり入出力が比例関係になる)領域で協調して動作する方式です。A級動作アンプの場合、ゼロクロス歪みがありませんのでひずみ率は小さくできますが、消費電力が大きくなりますし、そのために発熱量も大きくなります。従って熱でトランジスタが壊れてしまわないように大きなヒートシンク(冷却用のひれ)が必要になります。しかし今回は良い音を得ることを何よりも優先したかったので、A級動作アンプの製作に挑戦することにしました。
 ブレッドボード上で先達たちの色々なA級動作回路を試してみました。その中で、FC2でブログを書いていらっしゃる「sけいし」さんのop6w100113という回路がなかなか良い音を出してくれましたので、これをベースに製作させていただくことにしました。目指す音は高音まで歪みが少なく、定位と解像度が高い、クリアで味付けの少ない音です。こだわった点は、定位の良い音を得るために有効と思われる左右独立電源と、厳重なスピーカー保護回路です。A級アンプはトランジスタが高温になりやすいため、熱暴走でスピーカーを損傷してしまう恐れがあります。また、前述の回路で電圧増幅用のオペアンプを付けずに(電力増幅段の入力をオープンで)電源を入れると、出力電圧が不定になり電源電圧一杯まで振れてしまうことがわかったので、念のためスピーカー保護回路を入れることにしました。保護回路はスピーカ駆動信号にDCオフセットが生じるとリレーをオフしてスピーカを切り離す仕組みです。また、そのリレーを利用して、電源投入時に回路が安定するまで約15秒間出力をミュートしてポップノイズをカットするようにしました。リレーは音響用リレーを1チャンネル当たり2回路並列に使用して接触抵抗の低減と信頼性の向上を図りました。
 ここまでできれば、安心してお気に入りのスピーカーをつなぐことができるので、細かい音のチューニングが開始できます。実はこのチューニング作業が一番楽しかったりします。どの部品も交換すれば必ず大なり小なり音が変わりますから、その組み合わせによって自分の目指す音質に近づけることができるのです。これが手作りの醍醐味ですね。今回はオペアンプ、コンデンサ、抵抗を色々と変えてみます。現在はオペアンプとコンデンサがだいたい決まりました。長くなってきましたので、その結果はまたの機会に紹介したいと思います。

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電源部とアンプ部

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発熱がすごくてトランジスタは100℃、ヒートシンクは70℃になっていた
ケースに実装するときには更なる対策が必要だ

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アンプ本体よりも製作に時間をかけたスピーカー保護回路

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部品の評価用に秘密兵器を同時作製(詳細は別の機会に)


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自作ネットワークオーディオ [audio]

  昨今、オーディオの世界ではネットワークオーディオというものが流行しています。LAN上のNAS(Network Attached Storage)などに保存したハイレゾリューション・デジタル音源にアクセスして高音質で音楽を楽しむというものです。アストンマーチンのカーオーディオを手がけるスコットランドの音響機器メーカーLINNなどがさきがけとなり、国内外のメーカーも追従しましたが、未だ発展途上の感が否めず、価格もまだまだ高いのが現状です。正直言って、私自身欲しい機種がみつかりませんでした。欲しいものが売られていないのならば自分で作ってしまえという訳で、お遊びを兼ねてネットワークオーディオを自作してみました。
  実現したい機能は次の通りです。
 (1)NAS上の音源を現在使っているDAC(Digital to Analog Converter)で再生したい
 (2)小型アンプを内蔵し、PCや携帯型プレーヤの気軽な再生にも使いたい
この2通りの使い方を併用するのは全く一般的ではありませんから、市販品がないのも当然です。このわがままな要求を満たすために、今回製作した機器は電源ブロック、USBオーディオインターフェースブロック、S/PDIF(Sony/Philips Digital Interface)ブロック、小型パワーアンプブロックからなっており、下記のような入出力を備えています。
【入力】
USBオーディオ入力
デジタル入力(S/PDIF : 光1系統 同軸1系統)
外部ライン入力
携帯プレーヤ用入力
【出力】
スピーカ出力(約2W+2W)
デジタル出力(S/PDIF : 光1系統 同軸1系統)
アナログライン出力
使い方は、上記(1)の場合、ネットワークに接続したPCと本機をUSBケーブルで接続し、本機と外部DAC間をS/PDIFの光ケーブルか同軸ケーブルで接続します。その状態でPCからNASの音源にアクセスして、そのデータを本機でS/PDIFフォーマットに変換して外部DACへ出力します。(2)の場合はPCをUSBケーブルで本機に、または携帯型音楽プレーヤをステレオミニプラグ付きケーブルで本機に接続して再生します。スピーカは本機の小型アンプで駆動します。
  USBオーディオインターフェースとS/PDIFインターフェースはデジットのキットを使用しました(共立エレショップで購入)。テキサス・インスツルメンツ社のPCM2906というオーディオ・コーデックLSIを核に構成され、サンプリング周波数48kHz、分解能16ビットまで対応しています。小型アンプと電源はZnO's Technical LaboratoryさんのLM380を使った「非革命アンプ」を参考にさせていただきました。アンプを製作するのは初めてだったので、自分自身が日頃疑問に思っていたことを何点かブレッドボード上で確認しました。その結果、常識ではありますが次の2点が非常に重要であることを再認識できました。1つ目は、音質の要は電源にあること、2つ目はアンプに使用する部品は汎用部品よりもオーディオ用部品の方が明らかに音質が良いことです。電源部とアンプ部について下記に補足します。
【電源部】
  今回の電源部はトロイダルコアトランス(Nuvotem Talema社製15V25VA 型名70063)、整流ダイオード(Vishay社製 1000V3A UF5408-E3)、平滑コンデンサ(東信工業製 ハイグレード音響用Jovial UTSJ25V3300μF)、5V電源用ボルテージレギュレタ(ナショナルセミコンダクタ社製 LM1086)から構成されています。実験の結果、電源用の平滑コンデンサは音質に顕著に影響を及ぼすことが確認できました。容量が小さすぎると音の歪みが増し、低音も全然出ません。平滑コンデンサは電源からのパワーを溜めておくダムまたはバッファのような役割をしていますので、容量が小さいと瞬発力に欠けてそれが歪みとなって聞こえてしまうのです。トロイダルコアトランスでAC15Vに降圧された電源はダイオードブリッジを経て全波整流され、平滑コンデンサでリップルが取り除かれます。整流用ダイオードは容量的に余裕があり、ファーストリカバリータイプの物を使用しています。平滑コンデンサ(3300μF)を一つずつ増やしていって音質の差が判別できなくなる容量を調べると13200μF(3300μF×4個)となりました。また、汎用コンデンサから東信の音響用電解コンデンサJovialに変更したところ、高音が優しくなり、低音のボリューム感が増しました。
【アンプ部】
  アンプ部はZnOさんの「非革命アンプ」を参考にさせていただきました。ナショナルセミコンダクタ社製の定番オーディオドライバICのLM380に負帰還をかけて低音の周波数特性と高調波歪率を改善した素晴らしい回路です。まずは汎用部品を使って組み立てました。オシロスコープでおおよその周波数特性を見ると、20Hzから30kHzくらいまでは非常にフラットで、波形上は変な歪みも見られませんでした。しかしこれを試聴してみると、とても音楽鑑賞には使えないというのが第一印象でした。高音が歪んで聞こえ、例えばシンバルの音が耳を刺すようにうるさくて不快な音がしました。とても長時間聞いていられる音ではありません。そこで音質に一番影響を与えそうな出力段のカップリングコンデンサをニチコンのMUSEに変えてみました。すると刺さるような音が非常にまろやかになり、不快さがなくなりました。しかし、どうも平面的でメリハリのない音でした。次にその他のコンデンサを音響用として定評のあるドイツのWIMA社製メタライズド・ポリプロピレン・フィルムコンデンサに変更しました。すると高音の解像感と定位が向上して立体的で響きのある音になりました。今回は抵抗の検討はしていませんが、コンデンサ同様に音質が良くなる可能性はあるので、今後の課題としたいと思います。さすがに十万円台のHi-Fiアンプと比較するとその差は歴然ですが、数十円のICがここまでの音を奏でてくれるとは驚きでした。周波数特性はそれほど低音域に伸びていないはずなのですが、意外にも低音が豊かに鳴ってくれました。全体的にはミニコンポの音を凌駕しているように思えました。
  巷で良く言われている通り、コンデンサによる音質の違いが歴然と存在することを今回初めて体験することとなったわけですが、いったいその違いはどこから来るのでしょうか。コンデンサの特性を示す指標として、一般的に誘電正接(tanδ、タンデル)と等価直列抵抗(ESR)が用いられます。理想のコンデンサでは電流と電圧の位相が直交しているので電力は消費されませんが、実際には位相が完全に直交していないためにエネルギーの損失が起こります。この位相ずれを表すのが誘電正接で、この値が小さいほど理想コンデンサに近くなります。また、容量成分の他に、わずかながら直流抵抗成分を持ってしまうのも理想コンデンサとは異なる点で、これを表す値が等価直列抵抗になります。これも小さいほど理想に近くなります。今回の実験で、コンデンサを変えることによって主に高音部の歪みや定位が改善されたことから、音質改善の原因は高周波での位相特性、つまり誘電正接が大きく影響しているものと想像されます。汎用品と音響用の誘電正接をカタログで確認しましたが、120Hzで測定したデータしかなく、そのような低周波数域では大きな差はありませんでした。10kHz以上でのデータが見たいところです。その他の原因としては、寄与率は低そうですが振動特性の違いも考えられます。電解コンデンサは陽極酸化させたアルミ箔、電解液を含んだセパレータ、陰極用アルミ箔の3種類のテープを重ねてロール状に巻いた構造をしています。従って、音圧や振動で隣り合うテープの距離が変動すればその影響は静電容量の変化となって表れるでしょう。フィルムコンデンサでも然りです。箔の形状、硬さ、サポート方法などで音質が変わる可能性は充分にあると考えられるのです。また、ニチコンの特許を調べてみると、セパレータにガラスの粉を付着させると音質が良くなるという記述も見られました。さらにエルナーのSILMICというコンデンサではセパレータにシルク繊維を混ぜて音質を改善しています。各社色々なノウハウがあるようです。
  今回作ったネットワークオーディオ機器もどきは目論見どおり正常に動作しました。電気回路部分は特に苦労もなく検討も含めて数日で完成しました。Windows XPとの相性も問題はないようで、USBオーディオ機器として正常に認識されました。S/PDIFによる外部DACとのデジタル接続もできています。一方、アルミケースの機械加工には思いの他時間がかかってしまい、1日で終わると見込んでいたところ、数日を費やしてしまいました。外から見える部分なので、基板にマウントされた端子類に対するパネル穴の位置合わせや、加工部のバリ取りや成形などを慎重に行った結果です。穴位置の精度を保つためには、正確なけがき線入れとセンターポンチ打ちが重要でした。また、1mmの下穴からドリルを交換しながら徐々に穴径を広げて行くこともポイントでした。しかし手持ち型の電動ドリルでは加工精度に限度があり、ボール盤が欲しくなりました。システムの性能に関しては、今後Foobar2000などのプレーヤーソフトをASIO(Audio Stream Input Output)ドライバで駆動して、本来の目的であるネットワークオーディオの音質を評価して行きたいと考えています。また、ブロックごとに交換が容易な構造になっているので、アンプ部をもう少し高級なものに載せかえてグレードアップするのも良いかなと思っています。構想から完成まで、この数週間は非常にワクワクした時間を過ごすことができました。 もの作りは楽しいですね。

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今回重要視した電源ブロック。トロイダルコアトランスとハイグレード音響用コンデンサを使用。

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電源用平滑コンデンサには東信工業のJovialシリーズを使用した

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デジットのUSBオーディオインターフェースとS/PDIFインターフェース

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アンプブロック。赤色のコンデンサがWIMA社製メタライズド・ポリプロピレン・フィルムコンデンサ。

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同じメーカーでも標準品(青色)とオーディオ用(緑色)では全く音質が異なる

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穴あけ精度は正確なけがき線とセンターポンチが鍵となる

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穴あけが終わったリアパネル

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アルミケースに組み付けて完成。ケーブルの引き回しは更に検討の余地あり。

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フロントパネル

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リアパネル

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MUSE [audio]

  ミューズ(Muse)はギリシャ神話に登場する文芸をつかさどる女神たちです。中央ギリシャのパルナッソス山に住んでいて、合計で9神存在するとされています。music(音楽)やmuseum(美術館)などの語源にもなっています。
  ところで、今回紹介したいのはこの女神の名前を冠した電子部品、ニチコン株式会社の電解コンデンサMUSEです。実は最近、手作りオーディオに夢中になっていて、自作のアンプに色々な部品を試したところ、この部品を出力段のカップリングコンデンサとして使用すると音質が劇的に良くなりました。MUSEの名は伊達ではなかったということを身をもって体験しました。
  小学生の頃に初めて趣味と言えるオーディオと出会ってから現在に至るまで、主に市販のオーディオ製品で音楽再生を楽しんできました。従って、音響製品のカタログに「オーディオ用高級パーツを使用」などと誇らしげに書かれていても、実際には汎用部品との差がどのくらいあるのかは知る由もありませんでした。むしろ回路構成や実装方法の方が音質には支配的だろうとさえ思っていました。ところが、今回アンプを作るにあたりブレッドボード上で同じ回路のコンデンサだけを取り替えて比較したところ、高音での歪みが劇的に変化することがわかりました。汎用部品では、例えばシンバルの音が耳を刺して長時間聞いていられないのですが、MUSEにすると歪みが減ってまろやかなになり、鑑賞に値する音になります。音質に影響がありそうな部分の部品を色々と変えてみたのですが、どの部品も変えれば明らかに音質が変わり、しばらく部品選びに熱中してしまいました。部品の違いによる音質への影響は想像以上に大きいことがわかりました。結局、アンプとスピーカーの間に入れるカップリングコンデンサにはニチコンのMUSEを選択することになりました。
  私の趣味はオーディオ、写真、自動車、オートバイなどですが、共通点は「テクノロジと遊ぶ」ということだと自己解釈して来ました。ところが、もう一点「違いを感じて好みの物を選ぶ」という要素が共通していることを再認識しました。自作オーディオにはしばらくハマりそうです。

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