光と影・HDRと脳 [その他]
写真は光と影のアート。私は常々そう思っています。
人間の視覚のダイナミックレンジ(黒つぶれする明るさと白飛びする明るさの比)が100 dB(10万倍)以上あるのに対して、写真フィルムやデジタルカメラの撮像素子のそれは60 dB(1千倍)程度しかありません。このため、写真を撮るときに明るいところに適正露出を合わせると、暗いところは見た目以上に真っ黒につぶれてしまうことは良く経験されることと思います。しかしこれをうまく利用すると、見せたい部分だけを記録して、見せたくない部分を隠してしまうことができます。出来上がった写真は肉眼で見た印象とは全く変わってしまうかも知れませんが、撮り手の意図や心象をドラマティックに表現する強力な手段となります。写真が光と影のアートを創り出すのに適した媒体である一つの理由は、このダイナミックレンジの狭さにあると考えています。
一方、最近は現像ソフトやカメラ本体で手軽にHDR(High Dynamic Range)合成ができるようになりました。HDR合成とは数段階の露出で撮影した複数の写真を合成して、暗いところから明るいところまで黒つぶれや白飛びのない一枚の写真を作り出すことを言います。すなわち、明るさの階調が残っている「良い所取り」をして、元々広いダイナミックレンジを持つ景色を狭いダイナミックレンジしか持たない写真媒体に無理やり押し込める手法です。これも前述の方法とは対極にある写真表現の一つであると言えるでしょう。
ところで、人の視覚は意外にもこのHDRと同じ仕組みでダイナミックレンジを稼いでいるのをご存知でしょうか。10万倍もの明暗差がある景色を一度に見ているのではなく、実は時間や空間をずらして明るい所と暗い所を別々に認識し、脳の中で一枚の映像に合成していると考えられるのです。すると、HDR合成写真の方が、より人が見ている映像に近いとも言えますね。しかし、HDR合成写真を見ると、何だかのっぺりした不自然な写真に見えるのですから、人間の脳って面白いですね。これはおそらく、脳でHDR処理をする必要がなくなったことを逆に不自然と感じるのでしょう。
人間の脳がHDR処理を無意識にしているとは!
勉強になります。m(._.)m
by Pin-BOKE (2011-04-27 14:25)
Pin-BOKEさん
もしかしたら、視覚の仕組みをヒントに誰かがHDR合成を思いついたのかも知れませんね。撮像素子の広ダイナミックレンジ化も同じ方法で開発が進んでいるようです。
by ZZA700 (2011-04-27 23:23)
こんにちは^^
とてもとても、勉強になりました。ありがとうございます。
私、写真の理論はよくわかりませんが、
ZZA700さんのおっしゃるように、
写真は[光と影]のアートそのものだと思います^^
by Rei (2011-04-28 16:27)
Reiさん
賛同して下さってありがとうございます。
自然が作る光と影の美を損なわずに記録して行けたらいいなと思います。
by ZZA700 (2011-04-28 22:50)
HDRは明るい背景と人物の顔の露出を両立したい場合などは実に
有効ですよね。普通に撮れば背景の明るさに引っ張られて顔が真
っ黒になってしまいますので、今までだったらフラッシュを使用
して調整するなど手間を掛けていましたから。^^
しかし、風景などの場合は時によって単なる軟調な写真に仕上が
ることも多く、HDRの使い方次第で活かすも殺すもできるように
感じております。
α55などはHDRも進化していますし、手持ち夜景合成など多々機
能が搭載されておりますが、slowの場合ベーシックな調整しか使
わなかったりします。ε=ε=ε=ε=┏(; ̄▽ ̄)┛
by slowhanded (2011-04-29 07:42)
slowさん
HDR合成は露出の違う複数の写真から良い所取りをするため、一枚の写真を画像処理するソニーのDRO(Dynamic Range Optimizer)やニコンのアクティブD-ライティングよりは格段に階調を残して撮れる明るさの範囲と画質が向上したのではないかと想像します。原理上、動きの激しいものには向かないですが、風景や人物撮りには重宝しそうですね。色々と使い方を模索するのも楽しいかも知れませんよ。
by ZZA700 (2011-04-29 08:09)
へぇ~難しいなぁ~
確かに、光と影のアートですね^^
モノクロを撮ったりすると非常に痛感します。
ワタクシも早く光とお友達になりたいなぁ~と
思う今日この頃です
by Dandelion (2011-04-30 13:19)
Dandelionさん
おっしゃるとおり、モノクロ写真では光と影しか写らない訳ですから、まさに光と影のアートですね。私はまだモノクロに挑戦したことがないので、いつかはモノクロで作品が撮れるようになりたいなあと思います。
by ZZA700 (2011-04-30 14:19)
HDR写真が不自然に感じるのは、「脳でHDR処理をする必要がなくなった」というより、写真やPC画面に描かれている風景が、現実世界のような強い光の輝度が表せていないからだと思います。撮った写真のどこを見ても、実際の青空や太陽や太陽光を反射した水面ほどには光が強くありません。だから、人間の目はまぶしさを感じることが出来ない、本来まぶしいはずのものがまったくまぶしくないということが、実際の見た目の印象とまったく違うものになってしまう原因だとおもいます。ダイナミックレンジの話題では「階調」がつぶれるとかつぶれないとかいう言葉が良く出てきますが、人間の目にとっては、白とびや黒つぶれで失われた「階調」が写真上で復元できれば現実に近づく、というわけではなく、現実世界の持つ「輝度」のダイナミズムがさまざまな印象や感動を与えるのだとおもいます^^
by su (2012-12-31 16:51)
suさん
なるほど、確かにコントラストの大小によって受ける印象はかなり変わりますから、輝度のダイナミズムは視覚にとって大切な要素であることは間違いないですね。同じ輝度のハイライト部分でも、周囲に暗い部分があると無いとでは感じる眩しさが全く違うということですね。階調が残っていることよりも、コントラストによってリアリティが感じられるというご意見には激しく同感です。
by ZZA700 (2012-12-31 23:53)