植田正治写真美術館 [その他]
1995年、鳥取県の伯耆(ほうき)町に写真家・植田正治(1913ー2000)の作品を半永久的に展示する目的で植田正治写真美術館が建設されました。設計者は、キリン本社ビル(1995)、よこはま動物園ズーラシア(1998)、ワコール本社ビル(1999)などを手掛けた島根県出身の高松伸さんです。この美術館の敷地は大山が真正面に見える山麓に位置しているため、その絶景と如何に対峙し調和するかを念頭に置いて設計されたそうです。複数の直方体に分離された展示室と、その後ろを囲う大山を中心とした円弧状の壁が印象的な建物です。室内から大山を見通せるポイントがいくつかあり、額縁の中の絵画のような風景を楽しめます。また、展示室の一つが大きな写真機となっており、直径600mm、重量625kgの大口径レンズを通して壁一面に大山のライブ映像を結像させる仕組みを備えています。
植田正治は「植田調」と呼ばれる演出写真の手法を確立した海外でも人気のある写真家です。鳥取砂丘などを舞台に妻や子供にオブジェのようなポーズを取らせた独自の作風が特徴です。「少女四態」や「パパとママと子供たち」などの一連の演出写真を見たことがある方も多いのではないでしょうか。正治は1913年に鳥取県境港市の履物店「下駄屋」の次男として生まれました。小学生の頃から写真を始めましたが、高校卒業の頃には画家になりたかったそうです。しかし父親の反対に遭い、ドイツ製のカメラを買ってもらうのと引き換えに画家への夢をあきらめたのだそうです。そこで東京の中野にあった写真学校に入学し、卒業後19歳で地元・境港市に写真館を開業します。以来、約70年間にわたって地元を拠点に斬新な写真を発表し続けました。自らをアマチュアと称し、枠にはまらない自由な創作活動を貫きました。1996年にはフランス政府から芸術文化勲章を受章しています。